介護短歌〜安森敏隆が選ぶ今月の佳作〜

家族を介護する日々の苦しみや哀しみ、喜びを五・七・五・七・七の言葉に託した「介護短歌」。自分の目で見、耳で聞き、肌で感じたことを素材にし、思いついたことを素直に表現した「介護短歌」は、NHKテレビや雑誌等で大きな反響を呼んでいます。
ここでは毎月一回、自らも介護の経験を持ち、介護短歌の火付け役となった安森敏隆さんがみなさんから投稿された「介護短歌」を紹介し、全国の介護家族の心を結びます。

[2006年9月の介護短歌]

安森敏隆です。
残暑の厳しいことです。先日、東京で「いのちを見つめる」の特別対談を福島泰樹さんとしました。介護短歌を中心に、若者の歌や、ジャーナリズムの歌や老年層の歌にいたるまで、様々な歌をとりあげました。(「NHK短歌」11月号掲載予定)
福島泰樹さんは、私と同期で、1960年代の学生時代から歌を競い合ってきた友です。現在、「短歌絶叫コンサート」という新しい短歌のジャンルを作って「いのち」をうたって活躍したり、好きなボクシングをしたり、また一方では、東京下町の「法昌寺」の住職として地道に「いのち」の布教もしています。

【九月の優秀作品】

介護とは尊きしごと介護士は報われてよし胸張ってよし
本間耕作
(評 「介護」は21世紀の最も大切な問題になってきました。殊に「介護士」こそ、ここに歌われているように、世の光として「報われてよし胸張ってよし」です。)
少量の酸素を吸って母は在る呆けし世界に取り残されて
馬場さやか
(評 上の句の「少量の酸素を吸って母は在る」に、母の現在のぎりぎりの生と、作者の母に向ける愛が透けて見えて、何ともリアリティがある。)
朝顔の数は日ごとに減りゆきて父の介護も三年(みとせ)に入りぬ
半崎勝治
(評 父の介護三年目の「いのち」が、上の句の「朝顔の数は日ごとに減りゆきて」に象徴されているような歌である。)

《その他優秀作品》

大玉のスイカがスッパリ割られたる午後の病棟いのちの香り
阿部裕太
母の茄子食らいて眠る盆帰り哀しみ遠く父七回忌
丹沢悟
夏草や鉄路ははやも朽ち錆びて亡母(はは)の故郷は孤島となれり
山崎聡
ツンと立つアンモニア臭の部屋を開けおむつ替えれば炎暑入りこむ
花村紫苑
デイケアの車を降りて夕日浴ぶシルエットの母菩薩の如し
上島光彦
老い母を一手に介護つづけたる兄嫁倒れ地獄始まる
小寺美代子
町内の夏の祭りは佳境なり小林先生痴呆の母堂と
中山雄二
母の臥す窓の外には朝顔が可憐に咲いて清き朝来る
桑原洋子
水飯に味噌を落として食べたるは清貧の夏母とふたりで
高橋芳樹
亡き父の墓石に向かう上り坂老母の背押す幼き甥
家富要拓

介護短歌投稿へはこちらからお入りください

介護短歌の選評をされている安森教授の紹介は
安森教授プロフィール