Dr.神津の健康倶楽部

これまでは、病気にかかったら病院に通う、薬を処方してもらう・・・と病気の治療が重要とされていました。しかし、原因のわからない病気は未だ多く存在し、病気の治療から予防へと注目は移り始めています。
病気を予防するには健康な生活を送ることが大切ですよね。
ここでは、「よりよく生きる」ために日々の生活を考えていきます。

[第21回 万葉集の食材]

『釧着く答志の崎に今日もかも大宮人の玉藻刈るらむ』
(くしろつく、たふしのさきに、今日もかも、おほみやひとの、たまもかるらむ)
意味: 答志(たふし)の崎(さき)で、今日は大宮人(おほみやびと)たちは玉藻(たまも)を刈っているのでしょう。

『万葉集』で柿本人麻呂(かきのもとのひとまろ)の歌です。持統(じとう)天皇が伊勢に行幸された時に、都に残っていた人麻呂が詠んだものです。
万葉集の時代には既に収穫され、万葉集の中で幾度も登場する食材に『玉藻』があります。『玉藻』とは、わかめや昆布といった海藻類を指します。
海藻の中で最も多く日本の食卓に上がるわかめの健康への効果は、誰もが子供の時分から聞かされてきたことでしょう。しかし、具体的にどのように健康に良いのか、知っている人はその実少ないのではないでしょうか。
さて、今回は万葉集の時代から伝わるわかめの話です。

■わかめのぬるぬる

わかめの表面にはぬめりがあります。このぬめりは粘質多糖類によるもので、アルギン酸とフコイダンが主な構成成分です。
アルギン酸とフコイダンの働きは後述しますが、わかめのこのぬめりが、ピロリ菌が胃壁に付くのを阻害し、ピロリ菌が原因で起きると見られる胃潰瘍・胃がんの予防につながるのでは、と期待されています。

■わかめのミネラル

わかめには、ヨウ素をはじめ、カルシウム、カリウム、亜鉛などミネラル成分が豊富に含まれています。
わかめを始めとする海藻に豊富に含まれるヨウ素は、細胞の活動、神経細胞の発達、抹消組織の成長に影響する成長に不可欠な甲状腺ホルモンを構成する重要な成分です。ヨウ素が不足すると、成長発達異常や精神発達の遅滞の原因になるとされています。
カルシウムは、骨や歯の主たる成分です。カルシウムが不足すると骨がもろくなり、骨粗しょう症などの原因にもなります。
カリウムは高血圧の予防に効果的だとされています。

■アルギン酸

水溶性の食物繊維の一つのアルギン酸が、わかめのぬめりの主成分であるのは、先述しました。
植物繊維ですから、大腸の働きを活発にして、便通を良くする働きがあります。
また、アルギン酸にはナトリウムとコレステロールを吸着しやすい性質があり、胃酸などでは消化しきれない物質です。このため、アルギン酸は体内でナトリウムやコレステロールと結合し、それらと一緒に尿や便となって体外へ出て行ってしまうのです。

■フコイダン

アルギン酸同様、ぬめりを構成する多糖類のフコイダンは、内臓に効果的に働きかける栄養素として、近年注目されているものです。フコイダンは、胃の炎症や潰瘍の予防・修復をする働きや、肝機能の向上、がんの発生・進行を抑え、がん細胞を死滅させる作用があるとされます。
このフコイダンが、ピロリ菌が胃内で繁殖するのを阻害するようです。
40歳以上の人約80%が、胃の中にピロリ菌を保有していると言われ、ピロリ菌は一度胃の中に入り込むと、強力な除菌をしない限り、いつまでも住み着いてしまいます。
フコイダンにピロリ菌を殺菌する効果は確認されていないようですが、ピロリ菌の繁殖を防ぐだけでも、胃潰瘍の予防にはかなり有用な手段だと思われます。

■その他にも……

わかめには、身体を活性酸素から守り免疫力を高めるビタミンCや、肌荒れ・風邪の予防などに効果的なβ(ベータ)−カロチンの他、ナイアシンやビタミンA、B群、Kなどのビタミンも、野菜並に多く含んでいます。

■わかめの「もうそう」

わかめの表面には、半透明の毛髪のようなものがあります。
別の海藻が付着したと誤解される事もあるようですが、これはれっきとしたわかめの一部です。どのような働きをするのか、どのような環境で伸びるのか、まだ謎の多い器官です。
この毛髪に似た器官は、「もうそう」と呼ばれています。
「もうそう」を見ても、気味が悪いなどと妄想はせずにおきましょう。

最後に『万葉集』からもう一句。
潮干なば玉藻刈り蔵め家の妹が浜づと乞はば何を示さむ(山部赤人)
(しおひばな、たまも刈りつめ、家のいもが、浜づとこはば、何を示さぬ)
意味:潮が引いたら、海藻を採りなさい。家に待つ妻が海のお土産に、何をあげるのですか。

2006年12月掲載

健康倶楽部の原稿を執筆されているDr. 神津 の紹介はこちらから